僕たちは、アイドラゴンの番組に船橋と加田崎が映っていた理由について、しばらく話し合った。
五人全員が確認したのだから、見間違いではない。
しかし、なぜ二人があの場所にいたのかは、結局分からなかった。
施設で一夜を過ごした後、僕たちはそれぞれ身を寄せる場所を探すことになった。
三人の女性は福岡市内の実家へ帰るという。
奄美大島出身の平石は、そのうちの一人の家に泊めてもらうらしい。
やっぱり、あの二人は付き合っていたのだ。
僕だけが行く先を決めかねていた。
平石と彼女から一緒に来ないかと誘われたが、さすがに遠慮した。
まあ、夜までに宿が見つからなければ、もう一晩ここに泊めてもらうしかない。
玄関で四人を見送った後、僕は事件の発端となった公民館へ向かった。
職場に戻っても、好奇の目で見られるだけだ。
それなら、公民館をもう一度調べてみた方がいい。何か手がかりが残っているかもしれない。
公民館は、昨日とはまるで違う姿になっていた。
屋根の一部が破壊され、天井から空が見えている。窓ガラスは割れ、壁には無数の穴が開いていた。
瓦礫を踏みながら、昨日入った部屋へ向かう。
例の収納スペースを探してみた。
扉を開く。
中に積まれていた段ボール箱は、ほとんどなくなっていた。
そうだ。
昨日、船橋たちが車で運び出していた。
腰をかがめて奥を覗くと、一箱だけ残っている。
僕はその箱を引っ張り出した。
何が入っているのか気になったが、こんな場所で開ける気にはなれない。
箱を抱え、そのまま公民館を出た。
施設の玄関まで戻り、段ボール箱を開けようとしていると、昨夜の夜勤スタッフがやってきた。
菓子パンとペットボトルのお茶を差し出してくれる。
「あなただけ行くところがなかったのね。まだここにいるの?」
「ええ。もう熊本へ帰ろうかと思ってます」
「そう。それも仕方ないわね。ここも、もうすぐ閉鎖されるらしいから」
「閉鎖?」
「市から指示が来たの。お昼前には、入所者を病院へ移すんだって」
「どうしてですか?」
「パンデミック対策らしいんだけど……私たちにもよく分からないのよ」
話を聞くと、保健所から一方的に移送の指示が出たらしい。
だが、この施設で発熱者が出たわけでもない。
搬送は「向こうの人間」がすべて行うため、施設スタッフによる介助も必要ないという。
何とも妙な話だった。
女性スタッフが去った後、僕は段ボール箱を開けた。
中から出てきたのは、青と白のプラスチック製の拳銃だった。
昨日、公民館で見たものと同じだ。
箱には五丁入っていた。
一丁取り出してみる。
見た目は完全に玩具なのだが、やはり妙に重い。
子どもが遊ぶには重すぎる気がする。
とはいえ、こんな物を手に入れたところで何の役にも立たない。
無駄骨だったかな。
それより気になるのは、施設の閉鎖だ。
パンデミック対策による病院搬送とは、いったいどういうことなのだろう。
保健所からの指示なら従うしかないのだろうが……。
僕は玄関ホールに置かれたアイドラゴンの電源を入れた。
昨夜と同じ、急ごしらえのスタジオが映った。
今日はジャージ姿の太った男が、ホワイトボードの前に立っている。
男は青と白の拳銃を手にしていた。
僕は思わず、段ボール箱の中を見た。
同じだ。
画面の男が手話を始めた。
〈この銃は、感染した者の動きを一時的に止めるためのものです。取り扱いには十分ご注意ください〉
やっぱり、この銃だ。
僕は段ボール箱から一丁取り出し、改めて眺めた。
どう見ても玩具にしか見えない。
しかし、わざわざ放送で説明している以上、ただの玩具ではないらしい。
男は銃を机の上に置くと、神妙な表情でカメラに向き直った。
〈我々が生き残ったのは、音声によるコンタクトが必要なかったからです〉
僕は画面を見つめた。
〈あの病気の末期には○○○が現れます。迂闊に声を掛ければ、たちまち襲い掛かられます〉
○○○。
そこだけ、手話の意味が分からない。
〈血色がなく、どんよりとした眼差しが特徴です。音、特に人間の声には敏感に反応します。もし彼らに取り囲まれても、決して声を出してはなりません〉
僕は画面から目を離した。
さっき分からなかった手話が気になる。
「人」
「食べる」
それに、何かの「傾向」を表すような動き。
どういう意味なんだ?
平石なら分かるかもしれない。
スマートフォンを取り出そうと、リュックを探った。
そこで気づいた。
スマートフォンの充電コードがない。
スマートフォンのバッテリーはまだ九十パーセント残っているが、いずれ充電が必要になる。
リュックの中をもう一度探してみた。
やはりない。
たぶん、寮の部屋のコンセントに差したままだ。
僕は段ボール箱から一丁だけ銃を取り出し、リュックに突っ込んだ。
仕方ない。
寮は壊滅状態だが、燃えたわけではない。
探せば充電コードくらい見つかるかもしれない。
リュックを肩に掛ける。
そして僕は、全壊した職員寮へ再び向かうことにした。
つづく
